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使わない言葉「安定剤」その2 またはなんでBZD系薬剤は処方されるのか

その1では、「(精神)安定剤」として出されているBZD系薬剤はむしろ精神を不安定にする、と書きました。
 
「じゃあなんで、不眠症にBZD系睡眠薬を出すのか?」って思いますよね。
<たとえ時間が短くても、睡眠としては浅くても、睡眠がとれないよりはまし>という状況のためにあるのだと思います。


BZD系薬剤も、発売された1960年代当初は「安全な睡眠薬」として登場したのです。
比較対象は、それまでに処方されていた、バルビツール酸系睡眠薬などのかなり危険な薬剤でした。これらは過量服薬すると呼吸停止する作用もあり、自殺手段として用いられました。
「(比較的)安全な薬」としてBZD系薬剤は普及したのです。
そこから40年以上、BZD系薬剤に代わる選択肢がなかった、ということもありましょう。
 
 

もう一つ、BZD系薬剤を処方する医者、処方を希望する患者さんが多いのは、その酩酊感によるものだと思います。
強いお酒を一気に飲んだことがある方はわかると思いますが、アルコールが回ってきたときのクラッとする感じ、あの急激に変化する感覚がBZD系薬剤にもあります。
それが「あ、効いてるんじゃないの?!」という酩酊感であるのだと思います。
はい。酔っているだけです。
 
 
BZD系薬剤は「うつ」や「不安」に対して根本的な治療効果は持ちません。
でも、BZD系薬剤を服用している間にそれらが改善した、という事例や経験がある方もいると思います。
それは、BZD系薬剤の服用により時間を稼いでいる間に、「ときぐすり」や「ひとぐすり」が味方してくれたり、
苦痛な状況を何度か乗り越えることが暴露療法として作用した、という状況なのだろうと思います。
BZD系薬剤でなくてはならない理由はおそらくありません。
 
 
おそらく、BZD系薬剤は医者にとってより都合が良い薬剤なのだと思います。
治療効果はないにせよ、酩酊感により「治療してもらっている感覚」は処方できます。
そして時間を稼いでいくことにより「ときぐすり」「ひとぐすり」が効いてくることを待つことができます。
例え良くなっていなくても、「効いている感覚」はあるので、患者さんに不満を持たれることは少なくて済みます。
長々と良くならない話を聞いたり、生活指導したりの時間を取らずに<お薬出しておきますね>で治療している感じが出せます。
そして、よりダメな医者にとっては、患者さんが良くならないのに処方薬に依存してくれることで、長期に通院してくれることになります。
簡単にいうと儲かります。
ええ、多くの医者はそんなアクドイことは考えていません。まったく無意識です。
患者さんにとって良かれと思ってBZD系薬剤を処方していることでしょう
そして「地獄への道は善意で敷き詰められている」のです。
 
 
そんなことで、現在の精神科医療では、BZD系薬剤は積極的に処方する薬ではありません。それで十分に精神科治療を行い改善していただくことが可能です。
「効く」感じにあふれた薬物療法ではないかもしれませんが。
そうなると患者さんは「薬もちょっとは効いたかもしれないけど、むしろ自分で工夫したので良くなった」と感じることも多いと思います。
本質的には良い事なのですけどね。儲からないだろうなー
 
 
「(精神)安定剤」という言葉は、精神科医としては使うべきではない、というお話でした。
ちょっと今回は個人の主張に寄りすぎた、かも。
この項ここまで。